無期転換ルール
無期転換ルールは、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者(契約社員、アルバイトなど)からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。
契約期間が1年の場合には5回目の更新後の1年間に、契約期間が3年の場合には1回目の更新後の3年間に、無期転換の申込権が発生します。
有期契約労働者が使用者(企業)に対して無期転換の申込みをした場合、無期労働契約が成立します。
使用者はこの申し出を断ることができません。
有期労働契約で働く方については、雇止めの不安の解消、処遇の改善が課題となっていることから、有期契約労働者の無期契約化を図り、雇用を安定化させる目的で、平成25年(2013年)4月1日に改正労働契約法が施行されました。
無期転換の対象企業とは
無期転換ルールは、企業の規模にかかわらず、全ての企業が対象です。
無期転換の対象有期契約労働者とは
無期転換ルールの対象有期契約労働者とは、1年や6か月単位の有期労働契約を締結、または更新している方であり、一般に「契約社員」、「パートタイマー」、「アルバイト」などと呼ばれる方です。
ただし、これらに限らず、各社が独自に位置づけている雇用形態(たとえば、準社員、パートナー社員、メイト社員など)についても、契約期間に定めのある場合は、その名称にかかわらず、すべて「無期転換ルール」の対象となります。
なお、「派遣社員」の場合は、派遣元の企業に無期転換ルールへの対応が求められます。
無期転換のメリット
企業側のメリット
- 意欲と能力のある労働力を安定的に確保しやすくなる
企業の実務に精通する無期労働契約の社員を、比較的容易に獲得できます。 - 長期的な人材活用戦略を立てやすくなる
有期労働契約から無期労働契約に転換することで、長期的な視点に立って社員育成を実施することが可能になります。
有期契約労働者側のメリット
- 無期労働契約に転換することで、安定的かつ意欲的に働くことができるようになります。
- 長期的なキャリア形成を図ることができるようになります。
雇止めについて
有期労働契約において、使用者が契約更新を行わず、契約期間の満了により雇用関係が終了することを「雇止め」といいます。
雇止めは、労働者保護の観点から、過去の最高裁判所の判例により一定の場合にこれを無効とするルール(雇止め法理)が確立しており、労働契約法第19条に規定されました。
無期転換ルールを避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではありません。
また、有期労働契約の満了前に使用者が更新年限や更新回数の上限などを一方的に設けたとしても、雇止めをすることは許されない場合もありますので、慎重な対応が必要です。
よくある質問
Q1:無期転換の申込みがあった場合、いつから無期転換労働契約に転換する必要がありますか。
A1: 無期転換の申込みがあった場合、申込み時の有期労働契約が満了する日の翌日から、無期労働契約となります。
例えば、平成25(2013)年4月1日に開始した有期労働契約を更新して、平成30(2018)年3月31日に通算契約期間が5年となる労働者が、平成30(2018)年4月1日から1年間の有期労働契約を締結し、この契約期間中に無期転換の申込みを行った場合、平成31(2019)年4月1日から無期労働契約となります。
Q2:労働者から無期転換の申込みがありましたが、必ず無期転換しなければならないのでしょうか。
A2: 通算契約期間が5年を超える有期契約労働者が、現在締結している有期労働契約の満了日までの間に、無期転換の申込みをしたときは、使用者はこの申込みを承諾したものとみなされ、申込みの時点で、申込み時の有期労働契約が満了する日の翌日から労務の提供が開始する、という始期が付された無期労働契約が、既に成立していることになります。したがって、会社は無期転換を拒否することはできません。(労働契約法第18条1項)
例えば、平成25(2013)年4月1日に開始した有期労働契約を更新して、平成30(2018)年3月31日に通算契約期間が5年となる労働者が、平成30(2018)年4月1日から1年間の有期労働契約を締結し、この契約期間中に無期転換の申込みを行った場合、申込みを行った時点で、平成31(2019)年4月1日から実際に働く旨の無期労働契約が成立することとなります。
Q3: 無期転換の申込みがあった後、実際に無期転換される前までに、無期転換の申込みをしてきた労働者を雇止めや解雇した場合、どうなりますか。
A3: 無期転換の申込みをしてきた労働者に対して会社は無期転換を拒否することはできません。
会社が無期転換を認めず、現在締結している有期労働契約の満了をもって有期労働契約関係を終了させようとした(雇止めしようとした)としても、その雇止めをもって当然に無期転換申込権の行使により成立した始期付無期労働契約を解約(解雇)することにはならず、無期労働契約の関係は終了していないと考えられます。
また、有期労働契約だけでなく始期付無期労働契約の関係も終了させようと解約(解雇)を申し入れたとしても、この解雇が「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない」場合には、権利濫用に該当するものとして無効となるとされています。(労働契約法第16条)
さらに、有期労働契約の解約(解雇)が有期労働契約の期間中に行われた場合には、やむを得ない事由がない限り認められず、無効と判断される可能性は無期労働契約の解雇より高いと考えられます。(労働契約法第17条)
なお、労働者が無期転換の申込みをしたにもかかわらず、無期転換をさせないために労働者を雇止め・解雇することは望ましいとは言えず、仮に裁判になれば無効と判断される可能性は高いと考えられます。
Q4: クーリングについて教えて下さい。
A4: 同一の使用者との間で有期労働契約を締結していない期間(有期労働契約のない期間=「無契約期間」)が、一定以上続いた場合、それ以前の契約期間は通算対象から除外されます(このことを「クーリング」と呼びます)。
具体的にどのような場合にクーリングされることになるかは、以下のとおりです。
無契約期間の前の通算契約期間が1年以上の場合
無契約期間が6ヶ月以上の場合
無契約期間が6ヶ月以上あるときは、その期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含まれません(クーリングされます)。
無契約期間が6ヶ月未満の場合
無契約期間が6ヶ月未満の場合、前後の有期労働契約の期間は通算されます(クーリングされません)。
無契約期間の前の通算契約期間が1年未満の場合
無契約期間の前の通算契約期間に応じて、無契約期間がそれぞれ下表の右欄に掲げる期間に該当するときは、無契約期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含まれません(クーリングされます)。
その場合、無契約期間の次の有期労働契約から、通算契約期間のカウントが再度スタートします。
Q5: 60歳定年後に有期労働契約で継続雇用している労働者を、65歳(通算5年)を超えて契約更新した場合、この労働者は無期転換の申込みができるのでしょうか。
A5: 定年後に引き続き雇用している有期契約労働者についても、同様に無期転換ルールは適用となります。
ただし、適切な雇用管理に関する計画を作成し都道府県労働局長の認定を受けた場合には、特例として、その事業主に定年後引き続き雇用される期間は、無期転換申込権が発生しないという制度もあります。詳しくはこちらのパンフレットをご覧ください。
なお、有期契約労働者が、既に企業等において定めている定年の年齢を超えた後に無期転換申込権を行使した場合(例:60歳定年制の企業において、62歳に通算5年を超える有期契約労働者が無期転換申込権を行使した場合など)についても、同様に無期転換ルールは適用となります。この場合、上記定年が、定年の年齢を超えた後に無期転換した労働者に当然に適用されるわけではないことに注意が必要です。
Q6: 無期労働契約に転換される労働者のために、あらあじめ就業規則を整備する必要はありますか。また、整備するに当たり留意すべきことはありますか。
A6: 無期転換ルールによって、契約期間は有期から無期に転換されますが、無期転換後の給与などの労働条件は、就業規則等で別段の定めがある部分を除き、直前の有期労働契約と同一の労働条件となります。
したがって、無期労働契約に転換された労働者に対して、どのような労働条件を適用するかを検討した上で、別段の定めをする場合には、適用する就業規則にその旨を規定する必要があります。
ただし、無期転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後の労働条件を低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではありません。
また、特に定年など、有期契約労働者には通常定められていない労働条件を適用する必要がある場合には、適切に設定のうえ、あらかじめ明確化しておく必要があります。
Q7: 派遣会社で人事労務管理をしています。登録型派遣の方も多くいますが、このような法にも無期転換ルールは適用されますか。
A7: 「登録型派遣」(一般に、派遣労働を希望する方をあらかじめ登録しておき、労働者派遣をする時に、その登録している方と有期労働契約を締結し、労働者派遣を行うこと)の場合、派遣する都度、派遣労働者と有期労働契約を締結することとなりますが、この場合も派遣会社との間で無期転換ルールが適用されます。
したがって、同一の派遣会社との間で通算契約期間が5年を超えた場合、無期転換申込権が発生し、派遣労働者は、その契約期間の初日から末日までの間、いつでも無期転換の申込みをすることができます。
派遣労働者から申込みを受けた場合、申込時の有期労働契約が満了する日の翌日から、その労働者との間の契約は無期労働契約に転換されます。
そのため、無期転換後の労働者に対して、どのような労働条件を適用するかを検討し、就業規則等を整備する必要があります。
Q8: 無期転換申込権が発生する前に社員を雇止めすることは出来ますか。
A8: 使用者が有期労働契約の更新を拒否した場合(雇止めをした場合)、労働契約法第19条に定める雇止め法理により、一定の場合には当該雇止めが無効となる場合があります。
また、無期転換ルールを避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではありません。
有期労働契約の満了前に、更新年限や更新回数の上限などを一方的に定めたとしても、雇止めをすることは許されない場合もありますので、慎重な対応が必要です。
Q9: A社を定年退職後、有期労働契約でB社(A社のグループ会社ではない)に入社し、そののち無期転換した者など、有期特措法の特例の対象とならない高年齢者について、B社が定年を定めることは可能でしょうか。
A9: 労働契約において、労働者が一定の年齢に達したことを理由として労働契約を終了させる旨(定年)を定めることは可能です。
もっとも、就業規則における定年の定めについては、労働契約法第7条、第9条及び第10条に定められている就業規則法理の適用を受けるものであることに留意が必要です。(※)
無期転換ルールの趣旨も踏まえ、労使でよく話し合って十分な理解を得た上で、適切な労働条件の設定(定年の定め)をする必要があります。
(※)例えば65歳で無期転換した者の定年を66歳とするような場合など、無期契約に転換するという無期転換ルールの趣旨を没却させるような目的で定年の定めをすることは、法の趣旨に照らして望ましいものとは言えません。
同様に、無期転換ルールの趣旨を没却させるような目的で、無期転換時の年齢に応じて定年が無期転換後すぐに到来するように段階的な定年の定めを設定すること(例:無期転換申込権行使時の年齢が66歳の場合は定年は67歳、行使時の年齢が67歳の場合は定年は68歳とするような場合など)も法の趣旨に照らして望ましいものとは言えません。
Q10: 無期転換の申込みについて、原則として有期労働契約の期間が満了する日まで権利が行使できることを労使で確認した上で、合理的な長さの申込期間を設定すること(例えば、就業規則で契約期間満了の1か月前までと定めること等)は可能か。
A10: 後任者の採用など企業の人事労務管理上の必要性から、無期転換の申込みの期限について、就業規則等で「無期転換の申込みは契約満了日の1ヶ月前までに行うこと」などと定めること自体は禁止されていません。
ただし、法律上は、「契約期間が満了する日までの間に」無期転換の申込みをしたときは、無期契約が成立することとされていることから、就業規則等で上記のような申込期限を定めた場合であっても、労働者がその期限までにその真意に基づいて無期転換申込権を行使しない旨意思表示した場合は別として、契約期間の満了日までに労働者が無期転換の申込みをした場合については、その申込みが有効とされる可能性もあると考えられます。
なお、就業規則の制定・変更により申込み期限を定める場合は、その就業規則を労働者に周知させ、かつ、その定めの内容が合理的である必要があることに留意が必要です。(労働契約法第7条、9条、10条)。
Q11: 就業規則の定めや、その変更の「合理性」は、どのようにして判断されるのでしょうか。
A11: <就業規則の定めについて>
労働契約において労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合に、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容を補充し、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によることとなります(労働契約法第7条)。
この場合、就業規則に定められた労働条件の合理性の判断は、個々の労働条件について司法において判断されます。
A11: <就業規則の変更について>
原則として、使用者は労働者と合意することなく就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできません(労働契約法第9条)。
ただし、この合意の原則の例外として、
①当該就業規則の変更が合理的なものであり、かつ、
②使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させたときは、
就業規則の変更という方法によって労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することも認められます(労働契約法第10条)。
この場合、①の就業規則の変更の合理性の判断は、個別具体的な事案に応じて、
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
を総合考慮して司法において判断されます。
例えば、実際上の必要性がないにもかかわらず、無期転換ルールの適用を避ける目的で無期転換後の労働者に適用される就業規則の制定・変更をする場合等については、就業規則の制定・変更の合理性が認められないとされる可能性もあると考えられます。
Q12: 雇止めはどのような場合に無効となるのですか。
A12: 雇止めが有効か否かは、労働契約法第19条の「雇止め法理」に基づき判断され、有期労働契約が次の1、2のいずれかに該当する場合に、使用者が雇止めをすることが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、その雇止めは無効とされます。雇止めが無効とされた場合、従前と同一の労働条件で、有期労働契約が更新されます。
- 過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
- 労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの
例えば、無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的で、
- 無期転換申込権が発生する有期労働契約の満了直前に、一方的に、使用者が更新年限や更新回数の上限などを就業規則上設け、当該ルールに基づき、無期転換申込権が発生する前に雇止めをする場合
- 契約更新上限を設けた上で、形式的にクーリング期間を設定し、期間経過後に再雇用することを約束した上で雇止めを行う場合
等については、雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠くものとされる可能性もあると考えられます。
なお、上記の1、2に該当するか否かは、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の有無などを総合考慮して個別事案ごとに判断されます。
Q13: 「別段の定め」によって、無期転換後は勤務地や職種を堰堤しないこととし、正社員と同等の責任を負わせる定めをすることに問題はないか。
A13: 適法に定められた労働協約、就業規則または個々の労働契約によって、「別段の定め」として申込み時点の有期労働契約の労働条件と異なる労働条件を定めることは可能であり、この「別段の定め」には、正社員と同等の責任を負わせる定めとすることも含まれます。
ただし、実際上の必要性がないにもかかわらず、無期転換ルールの適用を避ける目的で無期転換後の労働者に適用される就業規則に「別段の定め」をすることは、労働契約法第18条の趣旨に照らして望ましいものとはいえず、就業規則の制定・変更の合理性が認められないとされる可能性もあると考えられます。
Q14: 有期労働契約から無期労働契約に転換して場合に、本人から退職の申出がない限りは雇用しなければならないのか。雇用の上限を定めることはできないのか(60歳未満の場合)。
A14: 雇用の上限を定めることは、定年を除きできません。
定年などの労働条件を、無期転換後の労働条件として適用する必要がある場合には、あらかじめ、労働協約、就業規則または個々の労働契約によりその内容を明確化しておくことが望まれます。
なお、定年の定めをする場合、定年は、60歳を下回ることができず(高年齢者雇用安定法第8条)、また、当該定めについては「退職に関する事項」として就業規則に必ず記載しなければならないこととされています(労働基準法第89条)
使用者が、定年によらず、無期転換後の労働者を解雇する場合には、労働契約法第16条の解雇権濫用法理が適用され、当該解雇が「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となります。
Q15: 通算契約期間が5年を超える有期労働契約を締結する際には、無期転換の申込みができることを使用者は説明しなければならないのか。
A15: 法律上、そのような説明をしたり、労働者に周知をする義務は定められておりません。
ただし、計画的な人事管理を行う観点からも、また、無期転換申込権の有無をめぐる紛争を回避する観点からも、あらかじめ、労働条件通知書において、「労働契約法第18条の規定により、有期労働契約(平成25年4月1日以降に開始するもの)の契約期間が通算5年を超える場合には、労働契約の期間の末日までに労働者から申込むことにより、当該労働契約の期間の末日の翌日から期間の定めのない労働契約に転換されます。」との記述をする等の周知を行っていただくことが望まれます。
なお、有期特措法による特例の適用に当たっては、紛争防止の観点から、事業主は、労働契約の締結・更新時に、特例の対象となる労働者に対して、それぞれ無期転換申込権が発生しない期間であることを書面で明示することが必要ですので、ご留意ください(労働基準法第15条及び特定有期雇用労働者に係る労働基準法施行規則第5条の特例を定める省令)。