文責 社会保険労務士 井戸
会社設立後にすべきこと
~労働条件通知書~
会社を設立して、会社規模を大きくするためには社長おひとりの力では限界がありますので、事務員さん営業マン等を雇用する必要が出てきます。
また、営業許可の要件を満たすためには、有資格者などを採用する必要もあります。
ここでは、人を採用した場合に必要となる労働条件通知書(雇用契約書)についてご説明します。
労働条件通知書と雇用契約書は、どう違う?
新入社員を採用した場合、法律上、会社と社員の間には契約が成立します。
いわゆる雇用契約という名の契約です。
会社は社員に、給与等を支払う義務を負い、代わりに指揮命令に従わせる権利を得ます。
社員は会社に、労働力を提供する義務を負い、代わりに給料等を貰う権利を得ます。
会社と社員の各々が義務を負い権利を得ますので、雇用契約は双務契約になります。
新入社員を採用した際に雇用契約書を交わしたり労働条件通知書を交付したりします。
では、雇用契約書と労働条件通知書は、どう違うのでしょう
労働条件通知書と雇用契約書は、どう違う?
雇用契約書とは
雇用契約書とは、社員を採用雇用する時に、事業主と労働者の間で交わす契約書の事です。
2部作成し署名・押印したあと、会社と社員がそれぞれ保管するのが一般的です。
では、雇用契約書を交わし忘れた場合は、どうなるのでしょう?
結論から申し上げますと、雇用契約が成立していれば、法的には雇用契約書は不要になります。
なぜなら、日本の民法では、契約の成立に書面などの「形式」を必要としない「意思主義」を基本としているからです。
そのため、原則として口約束だけで労働契約は正式に成立します。
ですので、雇用契約も口約束だけで契約は正式に成立するので、雇用契約書までは不要になります。
労働条件通知書と雇用契約書は、どう違う?
労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、雇用契約を結ぶ際に、給与や労働時間などの労働条件を会社から社員に書面で通知する義務のある事項が記載されている書類です。
労働基準法では、会社は社員に対して労働条件を明示することが定められております。
この社員への労働条件の明示は、労働者保護のため、労働基準法だけでなく、パートタイム労働法、労働者派遣法に基づく会社の義務です。
面接時に話した内容と実際の条件とでは話が食い違っていたということも考えられます。
そのため労使間のトラブルを防ぐために書面で労働条件通知書を交付する必要があるのです。
なお、2019年4月からは、メール等電磁的方法での明示でもよくなりました。
労働基準法第15条(労働条件の明示)では、労働の契約をする際に会社が労働者に対して明示すべき絶対的明示事項(後述)を定めています。
【労働基準法15条】使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
労働条件通知書は、必ず明示しなければならない絶対的明示事項と会社が定めを作る場合に明示すれば足りる相対的明示事項に分けられます。
労働条件通知書の明示内容
(1) 絶対的明示事項
必ず明示しなければならない事項
(2) 相対的明示事項
定めがある場合に明示する事項
下記に各々についてご説明します。
労働条件通知書
(1) 絶対的明示事項
労働条件通知書の内、絶対的明示事項は次の通りです。
労働条件通知書 絶対的明示事項
1. 労働契約の期間について
・ 期間の定めがある契約の更新の基準に関すること。
・ 就業場所や従事する業務に関すること。
2. 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日について
3. 賃金(臨時の賃金を除く)について
・ 賃金の決定・計算方法、支払方法、締切り、支払時期、昇給に関すること。
4. 退職について
・ 任意退職、解雇、定年制、休職期間満了による自然退職などに関すること。
5. 昇給について
なお、1~4は書面で明示する必要があります。
労働条件通知書
(2) 相対的明示事項
労働条件通知書の内、相対的明示事項は次の通りです。
労働条件通知書 相対的明示事項
6. 退職手当を受けられる労働者の範囲、支払の計算や方法
7. 臨時の賃金、最低賃金額、賞与
8. 労働者の負担となる食事、作業用品などの負担
9. 安全、衛生
10.職業訓練
11.災害補償、業務外の傷病扶助
12.表彰、制裁(懲戒の事由・種類、手続き)
13.休職
明示された労働条件と異なる場合には?
労働条件通知書により、社員に明示した労働条件と、実際の労働条件が違っていた場合は、どうなるのでしょう?
社員は、即時に労働契約を解除することが出来ます。
また損害が生じた場合には、損害賠償を請求することも可能になりますので注意が必要です。
また、会社が労働条件を明示しなかった場合には、30万円以下の罰金が科させられる可能性もあります。
労働条件通知書を交付する必要がある対象者は?
会社は、労働力として雇う全ての人に労働条件通知書を発行する必要があります。
正社員だけではなく、パート等の短時間労働者や契約社員、日雇労働者に対しても発行しなければなりません。
また、外国人であっても国籍を問わず発行する必要があり、トラブルを未然に防ぐためにも母国語を使って記載する等をしておくと良いと思います。
なお就業規則として発行することも出来ますが、各労働者は就業場所や勤務時間等が異なっていると思いますので、労働条件通知書は全ての労働者に個別で発行する必要があります。
トラブルを避けるために
前述しましたように、労働条件通知書は会社が一方的に社員に渡す書面ですが、雇用契約書は社員と会社の双方が「この内容に合意しました」と署名や捺印を取り交わします。
ですので、トラブルを避けるためにも雇用契約書を作成して、署名押印を貰っておくべきです。
また、雇用契約書を作成すれば、労働基準法で求められている書面による労働条件の明示も自動的に兼ねていますので、実務上は「労働条件通知書兼雇用契約書」というタイトルで書面を作成することも多いですし、名古屋ひまわり事務所では、「労働条件通知書兼雇用契約書」をお薦めしております。
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